【質問箱】「取引の安全を図ること」と「自由競争」の関係とは(民法177条)

【質問箱】「取引の安全を図ること」と「自由競争」の関係とは(民法177条)
【質問箱】「取引の安全を図ること」と「自由競争」の関係とは(民法177条)

【質問箱】「取引の安全を図ること」と「自由競争」の関係とは(民法177条)

1年生から、民法177条の背信的悪意者の論証について質問を受けたので、回答します。

法律を勉強するに際しては、「取引の安全」や「自由競争」をはじめとした抽象的な概念(マジックワード)がよく出てきます。マジックワードは、単に覚えるだけではなく、その意味内容をしっかり理解した上で答案を書くことが、高い評価へとつながります。意識して勉強してみてください。

質問

民法について質問させてください。177条に関する質問です。
「取引の安全を図ること」と「自由競争」はどのような関係にあるのでしょうか。文言が似ているため、混乱しています。
また、背信的悪意者排除論に関して、自分はいままでずっと、
①自由競争の範囲を逸脱した→②取引の安全が害される→③背信的悪意者は177第三者に該当しない、の順番で、背信的悪意者は177条の「第三者」に含まれない、と考えてきました。しかし、①→②の流れがそもそも成立しない(?)ため、この流れには誤りがある、との指摘を受けました。その理由が分からず悩んでいます。これはなぜなのかを、教えていただけますでしょうか。
お手数をお掛けしますが、よろしくお願いいたします。

回答

難しい質問ですね。悩むのももっともだと思います。
そのことを指摘した方に直接聞くのがてっとり早いと思います。笑

なんとなくその指摘をされた方の意図を私なりに汲み取ります。
177条の趣旨は、(不動産の所有者はその外観からでは誰のものかを推し量ることが難しいから、)自由競争の範囲内で、登記の有無の欠缺によって画一的処理を行うことにより、取引の安全を図る点にあります。

つまり、「取引の安全を図ること」は、177条の目的(効果)で、「自由競争」とは177条の効果の及ぶ範囲、という関係にあると思います。
この177条の文脈でいう「取引の安全」とは、当該不動産を承継取得などをしたいときに誰と取引すれば良いのか分かる(≒第三者から見て誰が所有者・権利者なのかが分かる)ということだと思います。

ところで、自由競争の範囲を逸脱した者(背信的悪意者)であったとしても所有権自体は有効に移転しているといえ、背信的悪意者が登記を備えていれば、第三者から見て誰に所有権があるのか、登記をみればチェックできる状態にあると思います。
(実際に、第三者が背信的悪意者から当該不動産を承継取得した場合、第三者が背信的悪意者でない限りは有効に所有権取得できることになります。)

したがって、自由競争の範囲を逸脱したとしても、当該不動産を承継取得したいときに誰と取引すれば良いのか分かる状態ではあるという意味において、取引の安全は害されていないということができます。

「①自由競争の範囲を逸脱した→②取引の安全が害される」が成立しないという指摘は、以上のような理由なのかなと推察しました。

論文で書く際には、
”信義則に反するような背信性を持つ悪意者は、もはや自由競争の範囲を逸脱し177条の趣旨が妥当しない(ため、登記の欠缺につき主張する正当な利益がない)から「第三者」にあたらない”
ぐらいの論述で良いと思われます。参考にしてください 。

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